2014-09-13

ハウスワイフ2.0よりオールワーカー2.0じゃない?

ある日の友人たちとのLINEのやりとりがものすごく切実で胸が痛んだので、これはインターネットの片隅に残しておきたいと思ってキーボードをぺこぺこ叩いている。
彼女たちは東京の企業で働いているのだが、それぞれ1歳弱から2歳くらいの子供がいて、出産後に産休と少しの育休を取ったあと、会社に復帰した。それぞれ1日4時間から5時間の時間短縮勤務、いわゆる「時短」をしている。

彼女たちの悩みは、ひとえに、残業大国日本において、時短で働くことに起因している。具体的にはこんなかんじだ。
「フルタイムのときのクオリティは物理的に絶対無理なのに、周囲の期待値はフルタイムの時と同じ」
「フルタイムのときの100%の出来を自分でも求めて、私の仕事はこんなじゃない!と思ってしまう」
友達のことをほめちぎるのもなんだが、彼女たちはみんな仕事への意欲があって、職場でも高く評価されている。そんな彼女たちが「時間的制約のせいで、思い通りに仕事ができない」と悔しがるのはよく考えてみれば自然の摂理だった。
子供が生まれたばかりの頃は「かわいいし、仕事したくない」とか言ってたが、根がまじめだし働くことが好きだから、いざ会社での仕事に復帰してみると「時短だし、適当でいいでしょ〜」なんて割り切ることができないくらい、彼女たちは仕事にも育児にも熱心なのだ。
よく、「時短の人は周りを頼りましょう!自分がいなくても仕事が回る体制を作りましょう」とか言うが、その辺についてもうまくいかせるのが難しいみたいだ。
「働く時間が短くて、忙しい周りの人と顔を合わす時間も限られるから、タイムリーに相談できない。さらに相談すらできない自分がふがいない」
「いない間のキャッチアップで午前が終わる。こっちの仕事の状況を話す暇も、向こうの状況も聞く間もなく、打ち合わせが始まる」
「メールが見切れない」
「限界まで自分でやろうとしてしまって、最終的に周りが見かねて助けてくれるんだけど、最初からお願いしておけば相手も楽だったんじゃと落ち込む」
うわー、話す時間がなくて、メールも見切れないって、有効な情報共有手段がない。さらに、時短だからこそ、できるところまではやらなければと思ってしまうのだろう。「甘えるの難しい。女子力低いし、いままで甘える人間の真逆のポジションにいた…」という友人の言葉には、みんな画面の前で「たしかに」とうなずいた。(と思う)

フルタイムのときのクオリティは無理、というのはどうだろうか。時間が短くても、なんとか品質を上げることはなんとかできるんじゃないだろうか…?という希望的観測も、ばっちり撃ち落とされた。
「考える仕事のアウトプットが出せない。アウトプットに一番満足していないのは自分自身」
わたしは、「身体を動かす仕事はフルタイム時代と同等のことができないかもしれないけど、考えることならできるんじゃないかなあ」と勝手に思っていた。
しかし、例えばわたしの場合、考えるためには正しい情報に基づく状況の把握と、その上での持論が必要だ。持論を導くためにいろんな情報を集めて考える結果を出して表現することには時間がかかる。その情報収集や理解には自分で考えているより時間がかかるし、体力も使うものなのかもしれない、と気づかされた。
「絶対にフルタイムだったときの自分には到達できないからいろんなテクニックが必要」
と友人たちは気づきを述べる。まったくその通りだ。今までと同じように資料を探して、読んで、考えて…というやり方を変えなければいけない。でもどうすればいいんだろう?という悩みの渦中に彼女たちはいる。
よく言われているフレックスとか、家でも仕事をできるようにする、という案を思いついたのだが、夜11時にもメールが来ていた自分の生活を思い返し、乳飲み子を抱えながらそんな生活は無理だろうと思い…っていうかそういう生活、誰がしていてもやっぱりおかしい。
「残業大国、男性天国の会社においてくじけそう」
「分速での仕事量は相当のはずなのに…」
男性社会、長時間労働がほめそやされる場所でくじけそうになるのはものすごくわかる。
こんな彼女たちの悩みを聞いて、わたしは、
「みんなががんばることに価値があって、がんばることで後の世代とか、子供の世代が生きやすくなるんだよ」
としか言えないのであった。


しかーし。そんな「がんばっていた母親」を反面教師にして、ちょっと貧乏でもいいからオーガニックで手作りの生活をしようとするのが、アメリカでちょっと前から話題の「ハウスワイフ2.0」である。

ハウスワイフ2.0(エミリー・マッチャー)

ウーマンリブ運動の影響を強く受けたハウスワイフ2.0たちの母親世代は、ばりばりと仕事をこなし、「家事はお金で解決」という姿勢だった。アメリカに来てみて驚いたことのひとつに、冷凍食品や保存食品のコーナーが異様に広いことが挙げられるのだが、あの大きな冷凍食品の棚にはこの時代背景も影響しているのだろう。家事なんかダサイ、みたいな風潮があったみたいだ。

母親は「働くのが当たり前だから、就職に苦労しないように」と教育に力を入れて、いい大学に進ませるのだが、そんな母親の背中を見て育った娘たちは、「お母さんはいつも忙しそうだし、ご飯はおいしくないし(想像)、こんな生活って本当に幸せなのかなあ?」と疑問を感じてしまう。

不況も手伝って、せっかくがんばって勉強したのに専門性を活かせない、やりがいのない仕事にしか就けない。家庭を持ちたいけど長時間労働だし子供を預けたらめちゃくちゃお金がかかるし夕飯は毎日冷えたピザだし(想像)……ああああ、もうめんどくさい!!!仕事やめて家に入る!!!

外で働いてないけど家で野菜とか鶏とか(!)豚とか(!!)育ててるし、ほとんど自給自足。だってスーパーで売ってるものなんて、どう育てられたかわからなくて怖い。冷凍食品なんてもってのほか、ほら、焼きたてのキッシュっておいしいでしょ?学校なんてどんなモンスターペアレントがいるかわからないし、できない子に合わせられちゃうから、子供には私が家で勉強を教えてあげるの。手芸品は白っぽい写真を撮ってEtsyで売ろう。空き時間には素敵ライフをブログで発信。あ、またコメントついてる。ああ、忙しいなあー。

……
…というのが、わたしから見たハウスワイフ2.0である。ちょっととげがあるように見えたらごめんなさい。
「食べ物はおろか、子供の教育ですら他人にはまかせられない!」という意識の高いハウスワイフ2.0たちの生活だが、田舎大好きでぐうたらしているわたしなのに、「豊かな生活でいいなあ」とは思えない。
なんだか「社会が信じられないから自分が!」というところに、鼻息の荒さと世捨て人感とストイックさと自分勝手さと自己顕示欲が透けて見えて、最終的には「家に遊びに行くとき、どんなおみやげ持ってけばいいかわからん…」という状態になるからである。ハウスワイフ2.0の前では、オサレオーガニックスーパーWhole Foodsですらだめ出しされるんだろなあ。外食もできなそうだ。

本の中でも、ハウスワイフ2.0たちが求める社会というものは、家の中にいるだけでは絶対に訪れないと書かれていて、心から同意した。
家庭の変化は大切だけれど、すべての変化が家庭の中だけで終わってしまってはもったいない。(中略) 女性が外で働くのをあきらめてしまったら、会社がいまと何も変わらず、職場での女性の発言権もなくなってしまう。わたしたちは、職場に踏みとどまって、男性と同じ給料や、適切な産休や、人間らしい勤務時間を手にいれなければならない。男性のために働くなんて馬鹿馬鹿しいと、仕事を辞めてしまったら、会社も社会も改善されないままだ。
ああ、本を読み始めたとき、友人たちに仕事もがんばれ!と言ったばっかりにその子供たちが働くのめんどい、と思ったらどうしようとか思ったけど、こういう結論になっていて本当によかった…とひそかに胸を撫で下ろしたのであった。

一方でこの本は、自立と人を頼るバランスがうまいなあ、と思ったし、社会への貢献といった面も言及されているので、悩んでいる友人たちにプレゼントしたいなあと思った。

 

著者の会社は育児や介護等、さまざまな事情を抱える社員がこれから増える中、残業を減らしても売上を維持もしくはアップさせることは可能だとしてコンサルティングを提供しているのだが、そんな著者から見て、日本社会はちょっとずつ変わってきているという。
もしかしたら皆さんは、「でもやっぱり、うちの会社は変わらない……。こういう環境で頑張り続けることに疲れてしまった」と思うこともあるかもしれません。でも、日本社会は今、確実に変わってきているのです。(中略) 創業して約8年たつのですが、弊社から営業の電話をしたことは一度もありません。900社のクライアントはすべて先方からの問い合わせで受注しました。とても強い危機感を持って、経営者自ら「うちの働き方を変えないと!」とご依頼いただく時代になったのです。(中略) 現在コンサルを提供している企業は、陸海空の運送、自動車部品、重電、製薬、エネルギー、ソフトウェア、食品、住宅、そして不夜城といわれた中央省庁など、多岐にわたります。変わらない業界なんてないと思います。
ここまで書いてみて、結局日本もアメリカも、父親や社会制度を始めとする一緒に子供を育てる人だけでなく、職場や同僚の協力はとても重要であるということを再確認した。
前出の友人のひとりは、「同僚と今の仕事がわかるようにExcelで共有するようにした」と言っていたが、なかなかいい第一歩だと思う。こういう、「みんなで協力しよう!」というのはアメリカよりも日本の風土の方が受け入れられやすいと思う。
道を拓くのは女性だけの努力じゃない。周りにいるすべての人の協力や、社会制度だと思う。ということで、ハウスワイフ2.0じゃなくて、オールワーカー2.0じゃない?と思ったのだった。

世の中の母のみなさん、自分で背負いすぎなくていいんだよ。あなたたちの苦労や努力は、確実に社会を変えています!


◆関連過去記事
ネイティブ女子との会話から考えるアメリカの少子化(の予感)
この会話の中に出て来る友人アメリカ人女子たちと比べると、ハウスワイフ2.0たちは、「外で働くことからは逃げるけど、社会からほめられそうなことをして、自分の選択を正当化している」だけのようにも見えるんだよなあ…